(日本経済新聞2020.02.06)
再配達削減への奥の手
在宅率の高い早朝(6~9時)荷物を配達する動きが広がっている。
アマゾンジャパンが早朝宅配の試みを地方都市にも広げ始めたほか、佐川急便も本格サービスの開始へ検討を始めた。
インターネット通販の拡大で宅配便の需要は増える一方、配送現場の人手不足は深刻だ。通勤・通学前に確実に届ける事で、再配達を減らしたい思惑がある。
「おはようございます。アマゾンジャパンです。」名古屋市内の住宅街で、個人ドライバーの男性(44)が一軒家のインターホンを押したのは午前7時45分だった。
スーツ姿の女性にアマゾンから委託された荷物を渡すと、次の配達場所へ向かった。午前8時までに宅配ボックスへの配達を含め4個の荷物を配った。
アマゾンジャパンは個人の運送事業者に配送を委託する「アマゾンフレックス」を2018年11月から東京・神奈川の一部で開始。最近は仙台市や札幌市にも広がっている。一番早い勤務時間は7時から。男性は「7時半になればインターホンを押していいと説明を受けている」といい、「最初は戸惑うお客も多いが、2回目以降は普通に受け取ってもらえた」と話す。
アスクルのネット通販「LOHACO」が一部地域で展開する配送サービス「ハッピーオンタイム」では午前6時から1時間単位で配送時間を指定できる。早朝の時間指定が出来るのは同社だけだ。佐川急便も早朝配達サービスの本格導入を検討している。
1998年、宅配便最大手のヤマト運輸が配達時間帯を選べるサービスを始めてから、時間帯指定サービスが定着。ただ、朝は9時以前には配達をしない事が業界内の暗黙の了解とされてきた。業界の慣習が変わろうとしている背景には、取扱数の急増と減らない再配達がある。
国土交通省によると、2018年度の宅配便の取扱数は約43億個。ネット通販の急拡大で過去10年で3割増えた。
さらに各社を悩ませているのが再配達問題だ。大手3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)の19年10月の再配達率は全国平均で15%で、都市部では16.6%だ。国交省は、再配達で年間約9万人分の労働力が浪費されていると試算。再配達を減らさなければ、物流分野の人手不足解消は難しいとみる。
大手ECサイト「楽天市場」を運営する楽天で物流部門を担当する滝沢執行役員は「在宅率が一番高いのは朝。午前10時までにどれだけ配達できるかで生産性は大きく変わる」と指摘する。
ただ、早朝になればなるほど就寝中に起こされたといった消費者の反発も予想される。このため、楽天でも一部地域で午前7時からの配達を始めたものの、土日や休日は8時以降に届けるように配慮しているという。
早朝に届ける商品と宅配便をセットで届ける試みもでてきた。新聞販売店を活用して宅配網を広げるラストワンマイルソリューション(東京・中央)は、玄関先などに荷物を置いて届ける「置き配」と、朝刊配達を組み合わせた早朝配達を宅配大手と検討している。
宅配便は朝受け取る。そんな風景が広がるかもしれない。
てすと